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東京高等裁判所 昭和63年(行コ)2号 判決

神奈川県三浦市初声町下宮田五〇番地

控訴人

木村千代子

右訴訟代理人弁護士

横山秀雄

同県横須賀市上町三丁目一番地

被控訴人

横須賀税務署長

伊藤博人

右訴訟代理人弁護士

横山茂晴

右指定代理人

山内敦夫

星野弘

岡村一重

合田かつ子

山口新平

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対して昭和五七年七月三一日付けでした控訴人の昭和五五年分所得税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定のうち、分離長期所得金額金二八三四万六〇〇〇円を超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者の主張

次のとおり訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

原判決七枚目表一〇行目「解すべきもの」とあるのを「解することができる」と、同末行「国税庁の相談官が」とあるのを「国税庁の相談官さえ」と、同裏二長目「のであるから、右回答に反した」とあるのを「のであり、このような国税庁の専門相談官が違った解釈をするような法律の文言及び解釈によってした」と、同三行目及び同九枚目表六行目に「信義誠実の原則」とあるのをいずれも「租税法律主義に反し、信義誠実の原則、禁反言の法理」と、それぞれ改める。

第三証拠関係

原審及び当審記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却すべきものと考えるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一六枚目裏八行目の「個人が」から同一七枚目表二行目の「解される。」までを次のように改める。

「個人事業者が、騒音規制地域内において事業の用に供していたその有する土地等、建物又は構築物(以下「土地等」という。)を、騒音発生施設の移転又は廃棄に伴って譲渡して、新たに同地域及び既成市街地等以外の地域に騒音発生施設を設置するのに伴い土地等を取得し、これを当該区域内にある事業の用に供する場合に、買換えの特例を適用して取得価格の引継ぎによる課税の繰延べ(買換資産の特例)を認めるというものと解される。」

2  同一七枚目表八行目の「また」を「すなわち」に改め、同裏二行目の「騒音発生施設」から同五行目末尾までを次のように改める。

「騒音発生施設について移転又は廃棄の権限を有する者が、その移転又は廃棄に伴い土地等を買い換えた場合に適用されるものというべきである。」

3  同一八枚目表二行目の「あっても」の次に「右移転の権限者として」を加え、同五行目末尾に左記を加える。

「右木村金属工業としてはその借地権を譲渡して、その代金で新しく土地等を取得すればよいのであり、地主たる控訴人が土地の買換えをすることには何ら必然性はない。前記三七条一項の規定において「伴う」という文言は、控訴人の主張するように解することはできない。さらに、控訴人の主張によれば、同項の規定における「事業の用に供しているもの」の事業は、不動産賃貸業をも含むと解すべきこととなるが、このような解釈は、到底採用することはできない。」

4  同一八枚目裏四行目の「個人」から同一九枚目表一行目の「できない」までを次のように改める。

「いわゆる同族会社についても、法人たる会社とその構成員たる個人とは明確に峻別すべきものである。特段の規定があれば格別、それがない本件のような場合において、その会社設立の動機がいかなるものであるにせよ、個人とは別に会社を設立して別の法主体として事業を行い、それによる利益を享受しておきながら、都合のよいときにはその同一性を主張するなどということは、およそ許されるべきことではない」

5  同一九枚目表八行目の「信義則」を「租税法律主義、信義誠実の原則ないし禁反言の法理」と改め、同裏八行目の「得たのであるから」から同末行末尾までを次のように改める。

「得たものであり、このように国税庁の専門相談官でさえ違った解釈をするような法律の文言及び解釈に従ってされた本件各処分は、租税法律主義、信義誠実則ないし禁反言の法理に反するものであるとし、証人浦塚貞樹の証言の中には、相談官らの回答についての控訴人の右主張に沿う部分がある。しかし、証人島貫圭吉の証言に照らすと、たやすく採用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、相談官らが確定的に控訴人主張のごとく本件特例措置の適用があると回答したとは認められない。」

6  同二〇枚目表一行目の「ところで」を「しかのみならず」と改め、同四行目の「信義誠実の原則」から同八行目の「まず」までを次のように改める。

「租税法律関係においては、法の一般原理としての信義誠実の原則あるいは禁反言の法理の適用によって課税処分を取り消すことができるのは、納税者間の公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分を免れしめて納税者の信頼、利益を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情がある場合に限られると解されるところ」

7  同二〇枚目表九行目「東京国税局」の次に「税務相談室横浜中分室の」を加え、同末行冒頭から同二一枚目裏七行目末尾までを次のように改める。

「たほか、昭和五七年六月にも、同じく税理士を介して東京国税局の相談官に照会したところ、同様の回答を得たというのであるが、かりにそのような回答があったとしても、税務当局が行う税務相談は、専ら行政サービスの一環として納税者のため税法の解釈、運用又は申告手続等についてその相談に応ずるもので、具体的な課税処分とは関わりがないし、もちろん当局の公式見解でもない。すなわち、右相談における回答は、将来の課税処分を拘束するものではありえない(その回答について担当者の故意、過失があったときは、不法行為、国家賠償の問題となる余地があることは別論である。)。そのことは、控訴人において多かれ少なかれ承知していたものと推認され、また控訴人の依頼により本件に携わった税理士は熟知していたはずであって、いまだにたやすく前記特別の事情があるとはいいえず、他にこれを認めうる証拠はない。そして、右に述べたとおり、国税庁の担当相談官らが控訴人主張のとおりの回答をしたと認め難いし、措置法三七条一項の表の三号の解釈上、既に説示したとおり本件について同号による特例措置の適用が認められないものであることが明らかである。したがって、本件各処分は、租税法律主義、信義誠実の原則、禁反言の法理のいずれにも反するものではない。控訴人の主張は、採用できない。」

三  よって、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木弘 裁判官 稲葉威雄 裁判官 筧康生)

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